イベントレポート
vol.116
Premium ONSEN・ガストロノミーイベントin千年のかくれんぼ(Aコース)を開催しました
~千年の刻を味わうガストロノミーのしらべ~
今回、一度は訪れてみたい日本三大秘境のひとつ、徳島県祖谷地方の各地に残る歴史や伝統文化の魅力に触れる1日限りのイベントとして実施しました。よびごと案内人からじっくりと話を聴き、ジビエ・雑穀(スーパーフード)等など世界農業遺産認定されたこの土地の伝統歴史文化に育まれたここならではのガストロノミーを堪能いただきました。
当日はAコースとBコース、二つのコースを開催。こちらはAコースの内容をお伝えします。
当日は雲一つない青空、秋晴れの1日。紅葉もまさに見頃を迎えたところです。
『祖谷ふれあい公園』からスタートです。通常のウォーキングではなく、本日はマイクロバスを使って移動いただきます。走行距離はおよそ100km。このエリアは本当に広いのです。
車内では、よびごと案内人の桧尾さんから、祖谷の古い歴史や文化、風景、先人から受け継いだ風習などをじっくりたっぷりをご案内いただきました。
『よびごと』という言葉は、この地方でまだ電話が無い頃に使っていた連絡手段で、山の上下(うえした)の離れている家や谷をはさんだ山向こうの家々に用事を伝えていた頃の呼び方だそうです。
~落合集落展望所~
最初に向かったのは、落合集落展望所となります。落合集落は山の急斜面に広がる集落で、その標高差は390mにも及びます。江戸中期から昭和初期の民家や、一つひとつ積み上げた石垣と畑などの光景が残っていて、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。その全景を真正面の展望所から眺めます。
展望所では熱々の『炒り歩危番茶』をご用意。このお茶は、大歩危で昔から作られおり、摘み取ったお茶の葉を蒸して天日乾燥させ強火で炒り上げたものです。農薬等を一切使用しないお茶の葉を使っており、香ばしい焙じ香とスッキリした味わいでとても飲みやすいお茶です。目の前には日本の原風景とも言える落合集落。お茶を飲みながら、しばしその景観に酔いしれます。
~栗枝豆腐こんにゃく店~
次に向かったのは、知る人ぞ知る、『栗枝豆腐こんにゃく店』を見学。お店の前に来てみると、大豆の香しい匂いがふわっと鼻腔をくすぐります。徳島県祖谷地方の豆腐は、縄で縛って持ち運べるほど大きく固く「石(いわ)豆腐」と呼ばれているそう。「祖谷の道は険しいし、昔は冷蔵庫もなかったから、固くて持ち運びやすく、水分が少ないから腐りにくい、こういう豆腐ができたんじゃないかなあ。ビニール袋がない時代は、縄で縛って持ち運んどったらしいし。」まさに先人の知恵で出来たお豆腐です。
それにしても大きなお豆腐です。石とか岩に例えられるのがよく伝わります。
栗枝さんに豆腐にまつわる色んなお話を聴きながら、みんな興味津々で覗き込んでいます。湯気が昇っている出来立てのお豆腐、まさにここに来ないと食べられないお豆腐、すぐにでもいただきたい!!のですが、お店では試食できないので、次のポイントでお薦めの食べ方でいただいてみることに。
~桃源郷祖谷の山里古民家・談山~
豆腐店を出てすぐに、落合集落に向かいます。先ほど全景を眺めていた場所を、集落内をうねるように伸びる里道を登っていきます。
集落内には一棟貸し切りで宿泊できる古民家が8棟あります。ここ落合集落はいわゆる限界集落で、人口は年々減り続け、それに伴う空き家問題が大きな課題となっていたのを「桃源郷祖谷の山里」プロジェクトとして空き家状態になっていた8軒の民家をこの地域の伝統工法に基づいて改修し、昔ながらの茅葺き民家型の宿泊施設として再生させました。東洋文化研究者アレックス・カーによるプロデュースです。日本人のみならず海外の方にも大人気。
今日はそのうちの一つ、『談山』をこのイベントのために貸し切りにし、前菜をいただくことに。なんとも贅沢です。
談山からの景色も素晴らしいです。皆さん写真撮影に余念がありません。
『山装う祖谷の前菜五種』
祖谷の渓流で育ったあめごと世界農業遺産認定の傾斜地農法システムで栽培されたそば米を合わせた「あめごとそば米の塩和え」
地元産の菊芋をその特徴を活かした味わい深く仕上げた「菊芋の味噌漬け」
祖谷の美しい里山に育まれた鹿肉と徳島県産の肉厚な椎茸を使用した「椎茸と鹿肉のソテー」
そば米を牛乳で優しい味わいに仕立てたバター香る「そば米のミルクリゾット」
伝統料理のでこまわしを可愛らしいサイズにアレンジした「ちっちゃいでこまわし」
祖谷の恵みをギュッと一皿に詰め込まれた、秋深まる祖谷の贅沢な味わいを再現。
更に、今回は一皿ごとに、その料理に合う地酒を一緒に提供し、料理とお酒のマリアージュを楽しんでもらいます。
徳島県三好市は知る人ぞ知る隠れた酒処。なんと「地酒で乾杯を推進する条例」まで制定されています。
今小町『山笑 純米吟醸』とカップリング。徳島県のお酒としては珍しい芳醇超辛口の純米酒です。
お酒を飲まれない方には、光食品の『オーガニックジンジャーエール』。ショウガがたくさん入っていて本格的なお味と大変好評でした。
そして、先ほど見学した栗枝豆腐こんにゃく店の出来たて石豆腐を。お好きな薬味を選んでお楽しみいただきます。
あれこれ迷うものの、栗枝さんおススメの食べ方は、すりおろしたニンニクと、たっぷりのかつお節、そしてゆずを使ったポン酢しょうゆをかけるのだそう。はい、決まりです(笑)
本日お料理を作ってくださったのは和の宿ホテル祖谷温泉・山下シェフ。談山まで来てもらって盛り付けやお料理の説明をしてくれました。珍しい食材に質問攻めに。丁寧に作られたお料理をみんなゆっくりと景色と共に楽しんでました。
~コエグロ(散策)~
コエグロとは 「にし阿波の傾斜地農耕システム」を象徴するものの一つ。 刈り取ったカヤを円錐形に積み上げて乾燥させ、細かく刻んで畑に入れることで、土の肥やしとなり、土砂の流出を防ぎます。 雑草を抑え、冬の寒さや夏の暑さを和らげ、乾燥を防ぐ効果もあります。お食事の後は、この「コエグロ」を散策がてら見てもらいます。
しかしながら、さすが傾斜地農耕システムだけあって、畑に到着するにはえっちらおっちら急な斜面を上らなければなりません。この斜面で農業をされるわけですから、もう脱帽です。
はぁはぁ、息を切らして辿り着いた傾斜地の畑では、これまた絶景が。これが『コエグロ』なんですね。
写真では伝わりづらいですが、本当に急な斜面で、この畑を歩くだけでも一苦労です。この環境でそばや雑穀が栽培されていて、先ほど美味しくいただいたんだと、感慨も一入です。よびごと案内人の桧尾さん、一生懸命『コエグロ』の作り方を教えてくださいました。
~栗枝渡八幡神社(散策)~
続いてバスで向かったのは栗枝渡(くりしど)八幡神社。メジャーな観光スポットではなく、観光客はほぼ訪れない、地域の皆さんに大切に受け継がれた神社です。今回はこの祖谷地方の歴史を感じていただくためにも、このスポットを選びました。
読み方も「くりしど」以外、「くりすど」と呼ばれたりもしています。
ここは高倉天皇の皇子(母は平清盛の娘:建礼門院徳子)である安徳天皇が火葬された場所と伝えられています。安徳天皇は、壇ノ浦で平氏一門とともに入水したのですが、各地に生存伝説が残っています。そのひとつがここで、安徳天皇を火葬したという「安徳天皇御火葬場」が境内にあります。源平合戦で敗れ、僻地へと落ちのびたとされる平家の落人伝説に思いを馳せてみてはいかがでしょう。
神社に到着すると、真っ赤な紅葉と真っ黄色のイチョウのコントラストが綺麗で、シャッターを押す手が止まりません。
この神社には鳥居がありません。「栗枝渡八幡神社には、鳥居は絶対に建ててはならない」という厳しい言い伝えがあったからだそうです。神社ではあるものの、安徳天皇のお墓であるためだそうです。ミステリーですね。
何かパワーをいただけそうな空気が流れています。木立の中で深呼吸したり、大木からエネルギーを貰ったり。
祖谷にはたくさんの平家落人伝説が残されています。「時間をかけて色々巡ってみるのもいいかも」と、参加者の皆さんの声が聞こえてきます。
~つづき商店~
さて、続いては次のお食事です。訪れたのは『つづき商店』。古代そば打ち体験やかずら工芸体験もできる祖谷そばのお店です。
ここでは何と言っても都築麗子さんの奥祖谷に古くから伝わる“粉引き節”という民謡を聴いてもらわないと!世界各国の旅行者を虜にしています。平家の落人たちは、ソバを栽培し、ソバを使った料理で生活をしのんでいました。都築さんは、地域の平家伝説や歴史を伝える語り部としても活躍されています。
通常、祖谷そばは暖かいおつゆに入れて食べるのですが、今日は冷たいおそばでいただきます。それとここで採れた季節の野菜などの数々。合わせるお酒は、『鳴門鯛純米吟醸巴』。三好のお酒ではないのですが、徳島県最古の蔵元である本家松浦酒造のお酒で、なめらかな酸と心地よい果実感が魅力で、おそばとの相性もバッチリ。ノンアルコールは『大歩危和紅茶』。スッキリとした飲み心地で、みんなお土産に買って帰ろうと、こちらも大人気。みんな美味しい笑顔をされています。
~ひの字渓谷(散策)~
祖谷川は剣山を源流に、山々を縫うように流れ、深く切り込んだV字型の渓谷を創り出しています。道路から覗き込めば、エメラルドグリーン色の水の流れる川が、目がくらむほどはるか下に見えます。ミシュラングリーンガイドで2つ星とされている祖谷渓谷はまさに絶景が続きます。祖谷川が大きく蛇行し、あたかも「ひの字」となっているように眺望できるのが祖谷渓・ひの字渓谷。この周辺を散策します。お天気も絶好調で最高に気持ちがいい散策です。
写真の写し方がへたくそで残念。まさに「ひ」の字をしている渓谷。
もう少し紅葉が進めば、こんな景色が目の前に広がります。
~和の宿ホテル祖谷温泉~
いよいよコースも佳境です。ホテル祖谷温泉で最後のお食事とその後はお楽しみの温泉入浴。
ホテル祖谷温泉のレストランで素晴らしい渓谷美を眺めながら、ゆったりとお食事タイムです。
今回ご提供するメニューは三好市の新たな食の魅力創出を目指す「三好市ガストロノミープロジェクト」として開発した新メニューです。『世界農業遺産に認定された傾斜地農法システムで栽培されたそば米、たかきび、やつまたの3種類の雑穀を使用したリゾットは特にお薦めです。豊かな大地が育む食材をふんだんに使い、そして地酒とのマリアージュを楽しんでいただく、慈食キュイジーヌ“祖谷和食 IYAWASHOKU”をお楽しみください。』と、山下シェフのコメント。
運ばれてきたのは『芳醇な地食』
噛みしめるほどに濃厚なコクと甘みが広がる徳島県の地鶏『阿波尾鶏』を、醤油やみりんに柚子など柑橘類を合わせた香味ダレに漬け込んだ『阿波尾鶏の香草焼き』。
合わせるお酒は『今小町純米大吟醸穣』
通常は2回行う濾過を一度も行っていないのが特徴で、絞ったままの豊かな色、味、香りが楽しめます。
続いては、『滋味深き秋味』
傾斜地農法システムで栽培された『そば米、たかきび、やつまたの3種の雑穀を使用したトマトリゾット』。茹で加減にこだわり、アルデンテのような食感になるよう調理、最後にお味噌を隠し味にプラスして、一層味に深みを加えます。
合わせるお酒は『芳水純米大吟醸』
原材料は米と米麹、四国山脈を源にする美しい伏流水。口の中に優しく広がる上品で自然な吟醸香、爽やかな酸味、心地よい旨味を感じます。
最後は『優しい甘さの癒しのデザート』
お楽しみのデザートは、『すだちと和三盆のカステラ&酒粕と和三盆のムース』
噛むたびに徳島が誇るすだちの爽やかな香りが広がります。酒処、三好ならではの酒粕と和三盆の優しく上品な甘さがピッタリマッチ。
合わせるお酒は『すだち酒』
ソフトドリンクもぶどうジュースやすだちジュースをご用意。
皆さんゆったりと、食事とお酒のマリアージュを楽しまれていました。一番人気は、シェフお薦めのそば米と雑穀のリゾット。プチプチした食感が最高!との声が。
食事の後は各自三々五々に温泉へ。こちらはホテルのお写真を拝借。ロープウェイに乗って、谷底にある源泉かけ流し露天風呂~絹泡夢想の湯(きよらのゆ)~へ。そして2021年3月にリニュアルされた展望風呂~雲遊天空の湯(そらのゆ)~へ。
とろけるお湯と絶景に心も身体もほどける時間を堪能です。
時間がいくらあっても足りません。次回は是非、宿泊して楽しんでいただきたい。
最後はホテルからほど近い『小便小僧』を見学。子供たちが崖の上から渓谷に放尿することで度胸試しをしたという逸話から作られたとされる像。谷底まで200mの高さがある小便岩といわれる大断崖に、立っています。
まさに唯一無二の景観です。
全ての行程を終え、祖谷ふれあい公園に戻ってきました。よびごと案内人の深く詳しい案内の元、「その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的としたツーリズム」であるガストロノミーツーリズムを心行くまで満喫いただいた秋の1日でした。
『千年のかくれんぼ』を探索しに、是非お越しください。